利息制限法は、以下のとおり、金銭消費貸借契約における利率の上限を規定しています。
<第1条>金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
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したがって、借入額が10万円未満の場合は20%、10万円以上100万円未満の場合は18%元、100万円以上の場合は15%を超える利率によって計算される利息を上回る利息を支払った場合、「利息の払い過ぎ」の状態となります。
現在では、
ということについては、確定した最高裁判例となっていますが、これには長い裁判の歴史があります。
本判例は,以下のとおり判示しました
債務者が,利息制限法(以下本法と略称する)所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払ったときは,右制限をこえる部分は民法419条により残存元本に充当されるものと解するを相当とする。 債務者が利息,損害金の弁済として支払った制限超過部分は,強行法規である本法1条,4条の各1項により無効とされ,その部分の債務は存在しないのであるから,その部分に対する支払は弁済の効力を生じない。従って,債務者が利息,損害金と指定して支払っても,制限超過部分に対する指定は無意味であり,結局その部分に対する指定がないのと同一であるから,元本が残存するときは,民法491条の適用によりこれに充当されるものといわなければならない。 本法1条,4条の各2項は,債務者において超過部分を任意に支払ったときは,その返還を請求することができない旨規定しているが,それは,制限超過の利息,損害金を支払った債務者に対し裁判所がその返還につき積極的に助力を与えないとした趣旨と解するを相当とする。 更に,債務者が任意に支払った制限超過部分は残存元本に充当されるものと解することは,経済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする本法の立法趣旨に合致するものである。右の解釈のもとでは,元本債権の残存する債務者とその残存しない債務者の間に不均衡を生ずることを免れないとしても,それを理由として元本債権の残存する債務者の保護を放擲るような解釈をすることは,本法の立法精神に反するものといわなければならない。 |
本判決は,昭和37年の大法廷判決(最大判昭和37年6月13日)をわずか2年後に変更した異例の判例ですが,2年間の間に裁判官の交代があり,制限超過利息の元本充当を否定した昭和37年判決に付された反対意見に賛同する裁判官が多数派となったことによるものと言われています。
本判決により,利息制限法所定の制限を超過する利息の元本充当が認められることになり,その後の過払い金返還請求を容認する判例(なお,本判例の時点では,元本消滅後の不当利得返還請求は認められていませんでした)と相まって債務者保護への道が大きく開かれることとなりました。
経済的弱者の地位にある債務者保護という利息制限法の立法趣旨に立ち返って条文解釈を行ったものであり,大多数の学説も一致して本判決を支持しました。
本判例は,以下のとおり判示しました
思うに,利息制限法1条,4条の各2項は,債務者が同法所定の利率をこえて利息・損害金を任意に支払ったときは,その超過部分の返還を請求することができない旨規定するが,この規定は,金銭を目的とする消費貸借について元本債権の存在することを当然の前提とするものである。けだし,元本債権の存在しないところに利息・損害金の発生の余地がなく,したがって,利息・損害金の超過支払ということもあり得ないからである。この故に,消費貸借上の元本債権が既に弁済によって消滅した場合には,もはや利息・損害金の超過支払ということはありえない。 したがって,債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると,計算上元本が完済となったとき,その後に支払われた金額は,債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから,この場合には,右利息制限法の法条の適用はなく,民法の規定するところにより,不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。 |
昭和29年制定の利息制限法1条2項は,明治10年制定の旧利息制限法下における判例理論を踏襲した形で,「債務者は,前項の超過部分を任意に支払ったときは,同項の規定にかかわらず,その返還を請求することができない。」と規定していた(現在は削除されています)ため,債務者が利息制限法所定の制限を超過する利息を支払った場合も,その返還を請求することはできないと考えられていました。
そのような状況下で,利息制限法による利率の制限は事実上無力化していましたが,本判例は,高利金融から消費者を保護するとの利息制限法の立法趣旨に立ち返り,解釈によって超過利息の返還請求を認める立場を明らかにしました。
本判例の確立した法理は,昭和58年の貸金業規制法の制定により,立法的に部分的修正が加えられることとなりましたが,現在でも生き続けています。