継続的な金銭消費貸借取引において,同一の借主・貸主の間で,複数の取引が並行して行われている場合があります。そのような場合において,併存する取引のうち一つに過払い金が発生した場合,その過払い金を他の取引の残債務に充当できるかという問題(いわゆる「横飛ばし計算」の問題)があります。
この問題に関しては,最高裁平成15年7月18日判決(民集57巻7号895頁)が明確に判示しています。
すなわち,同判決は「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。」と判示しています。
民法489条及び491条は,「債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において,弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りない場合」についての弁済充当方法について規定していますが,この最高裁平成15年7月18日判決は,その趣旨を過払い金が発生した場合にまで及ぼしたものと評価できます。
判例の文脈からも明らかであるとおり,上記判例の言う「充当」は法定充当であって,「充当に関する特約」というのは,民法488条に規定されている充当指定に関する当事者間の特約を意味しています。後掲最判平成19年6月7日,同最判平成19年7月19日及び同最判平成20年1月18日の言及する「過払金充当合意」を意味するものではありません。すなわち,「充当指定」と「充当合意」とは全く異なる概念であることが分かります。
しかしながら,この問題については,どういうわけか「過払金充当合意」の有無によって判断すべきと考えている下級審の裁判官が多数いるように見受けられます。
おそらく,最高裁判例の射程について誤解が生じているものと思われますが,今一度,最高裁平成15年7月18日判決の趣旨に立ち返るべきであると考えます。
※「民集」は,最高裁判所民事判例集の略です。この判例集に登載された判例は,最高裁調査官の解説がなされ,実務上重要な意味を持つとされています。