ハラスメントとは、一般的に「力関係で優位にあるものが劣位にあるものに対して精神的・身体的苦痛を与える行為」、あるいは、端的に「職場環境を悪化させる行為」などと定義づけられています。
職場で起こり得る典型的なハラスメントとして、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)などがあり、これらは大きな社会問題となっています。
企業は、これらのハラスメントに対し、適切な防止措置を講じ、あるいは実際にハラスメントが発生した場合に適切な対応を行うことが求められています。
弁護士法人VIA支所 倉敷みらい法律事務所では、職場におけるハラスメントへの対応に関し、体制整備に向けた助言・サポート、ハラスメント事案への対応に関する助言・サポート、ハラスメント事案の調査、ハラスメント防止研修の講師依頼まで、ハラスメント対応に関する様々なご依頼に対応しております。お気軽にご相談ください。
令和元年5月、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が成立し、パワハラが法律上正式に位置付けられることになりました。
その中で、パワハラは、職場において行われる①優位的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③その雇用する労働者の就業環境が害されることという三つの要素を充たす行為を指すものと定義づけられました。
事業主は、パワハラを防止する措置を講じることが義務付けられ、その内容として、パワハラへの対処方針を策定し周知すること、パワハラに関する相談に応じ、適切に対応するための体制を整備することなど「雇用管理上必要な措置」を講じることが求められることになりました。
パワハラ防止法により、事業主は、パワハラを防止する措置を講じることが義務付けられ、その内容として、パワハラへの対処方針を策定し周知すること、パワハラに関する相談に応じ、適切に対応するための体制を整備することなど「雇用管理上必要な措置」を講じることが求められることになりました。
これにより、職場において実際にパワハラが発生した場合、企業がパワハラ防止法に基づく措置を講じていなければ、使用者責任や安全配慮義務違反による責任を負う可能性が非常に高くなったといえるでしょう。
厚生労働省は、企業が講ずるべき措置について、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」(パワハラ防止指針)を公表しており、実際にはこの「指針」に基づいて具体的な措置を講じていくことになると思われます。
「指針」の中では、事業主が講ずべき措置として、以下の10項目が挙げられています。
セクハラについて、法律上の定義はなされていませんが、職場において行われる「労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること」を意味するものとされています。
男女雇用機会均等法では、
といったセクハラについて、事業主がこれらを防止するための措置を講じることが義務付けられています。
事業主が講ずるべきセクハラを防止するための措置について、厚生労働省は、男女雇用機会均等法に基づいて、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)」(セクハラ防止指針)を公表しています。
「指針」の中では、必要な措置として次の10項目が挙げられています。
マタハラについても、法律上の定義はなされていませんが、一般的に「女性労働者が妊娠・出産に伴う就業制限や育児休業等を理由として、精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、解雇や雇止め、自主退職の強要、配置転換等の不利益な取扱いを受けること」と指すものとされています。
マタハラには、
の2類型があるとされています。
マタハラを防止するために事業主が講ずべき措置について、厚生労働省は、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 28 年厚生労働省告示第 312 号)」(マタハラ防止指針)を公表しています。
その中では、事業主が講ずべき措置として、概ね以下の13項目が挙げられています。
また、育児に関しても、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針 (平成 21 年厚生労働省告示第 509 号)」を公表しています。
セクハラ防止指針と重複する内容も多くなっていますが、「妊娠等した労働者に関する周知・啓発」(上記11番)として、「職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するため、妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識をもつことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等について周知・啓発すること」を措置の内容として取り入れている点が特徴的となっています。
ハラスメントが疑われる事案が発生した場合、企業として早急に対応する必要があります。
ハラスメントが疑われる事案が発覚する端緒は、上司あるいは企業内に設置された相談窓口への相談といった形をとるのが通常と思われます。
まずは、その段階で、相談者(被害者)から適切かつ丁寧なヒアリングをすることが必要です。相談への対応においては決して予断を持ってはならず、秘密を厳守することも必要です。
また、正式にハラスメント事案として調査を開始する場合、行為者(加害が疑われる職員)や職場の同僚に対する事情聴取なども必要となることから、相談者にも事前に理解を求めたり、相談者の心情にも十分配慮することが必要です。
正式にハラスメント事案として調査を開始する場合には、あらためて相談者(被害者)からも十分な時間を取って事情聴取を行った方がよいと思われます。
この際には、単なる相談対応ということに止まらず、後の事実認定を意識し、供述に不自然な点はないかといった視点も持ちながら、事実認定のために必要な情報を的確かつ詳細に聴取することが必要となります。併せて、録音やメールなど客観的な証拠の有無についても確認し、保全に努めるべきです。
相談者(被害者)の訴える状況について整理できたら、職場の同僚など第三者からの事情聴取を行う必要があります。直接的な利害関係を持たない第三者の供述は事実認定に際して重要な意味を持ってくることがあります。
ある程度、状況を整理することができたら、行為者(加害が疑われる職員)からの事情聴取を実施することになります。被害者や第三者からの聴取で得られた情報や客観的証拠から確実に認められる事実関係を整理し、十分な準備を行ったうえで臨むべきです。聴取の際には、逐一、行為者の認識を確認することで、争いのない事実、供述内容の不一致を一つ一つ整理していく必要があります。
事情聴取と客観的証拠の把握が済んだら、事実認定を行うことになります。
行為者において被害者の供述内容を争わない場合にはそれほど大きな問題は生じないかもしれませんが、重要部分の供述内容が一致しない場合は、非常に丁寧な事実認定作業が必要になります。
事実認定において重要なポイントは色々とありますが、まずは争いのない事実や客観的証拠から認定できる事実を確定し、その上で、被害者及び行為者の双方の供述の合理性、信用性を検討していくことになります。
適切な事実認定を行うためには、事実認定についての専門知識を有する弁護士の助言・サポートを受けながら調査を進めた方がよいと思われます。
事実認定の結果、行為者によるハラスメント行為の存在が認定できる場合、行為者に対する懲戒処分、人事異動等も含めた再発防止策について検討をすることになります。
行為者に対する懲戒処分に際して検討すべき点については、懲戒処分のページをご覧ください。