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交通事故賠償において賠償金が減額される理由には,①過失相殺,②損益相殺,③素因減額などがあります。
過失相殺
交通事故の発生や損害の拡大について,被害者側の落ち度(過失)がある場合に,その過失の大きさに応じて割合的に賠償額が減額されるものです。
損益相殺
被害者や遺族が交通事故によって何らかの経済的利益を得た場合で,その利益が損害の填補に当たる場合に,その金額が賠償額から減額されるというものです(例えば,自賠責保険の保険金)。
素因減額
被害者の精神的傾向である「心因的要因」や,既往の疾患や身体的特徴などの「身体的素因」が,損害の拡大に寄与していると認められる場合に,割合的に賠償額が減額されるというものです。
被害者にも事故発生に関する一定の落ち度がある場合に,一定の割合で損害賠償額を減額し,「損害の公平な分担」を図るのが「過失相殺」と言われるものです。
このように,「過失相殺」は「損害の公平な分担」の観点から,「自己に発生した損害の一部を相手方に請求できない」ということを意味するに過ぎず,「過失相殺」の「過失」は,相手方に対する損害賠償責任や刑事責任を基礎付ける注意義務違反としての「過失」(民法709条)とは別概念です。
民法722条2項は,「被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる」としており,どの程度の過失相殺を行うかは,裁判官の自由裁量とされています。
交通事故の分野においては,これまで集積された裁判例などに基づいて,過失割合の基準が事故態様別にある程度類型化されており,一般的には,別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(全訂5版)という文献に掲載された基準が実務上重視されています。
この本の中では,交通事故の類型が
に分類され,それぞれについてさらに細かい場合分けがされて,338通りの過失相殺率基準と各基準についての修正要素が解説されています。
もっとも,交通事故の態様によっては,この338通りの基準の中にも直接当てはまる図が見当たらない場合もあり,そのような場合にはできる限り近い図を適宜修正して参考とすることになります。
交通事故の被害者が,交通事故によって経済的利益を得た場合,その分が賠償額から差し引かれることがあります。
これを「損益相殺」といい,代表的なものとして,以下のようなものがあります。
自賠責保険金(及び政府保障事業による填補金)は損益相殺されます。
また,充当の際には,支払い時に遅延損害金から充当されることになります(最判平成16年12月20日)。以前,他の専門家が関与しているケースで,交通事故発生時点に元本充当してしまっている例を見たことがあります(交通事故事案に慣れていない専門家の場合,この点の理解が不十分な可能性があります)ので,注意が必要です。
交通事故と損害の間に因果関係があることは前提として,被害者の「素因」が損害の拡大に寄与していると考えられる場合に,「損害の公平な分担」の観点から,加害者の負うべき賠償責任を合理的な範囲に限定する場合があります。
これが「素因減額」と呼ばれるものであり,「素因」には,一般的に「身体的素因」と「心因的素因」とがあるとされています。
最判平成4年6月25日(民集46巻4号400頁)は,「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の当該疾患をしんしゃくすることができる」と述べています。
この判決は,交通事故より前に一酸化炭素中毒に罹患していた被害者が,交通事故によって一酸化炭素中毒による症状が悪化し死亡したというケースについて,「損害の公平な分担」の観点から50%の素因減額を認めたものです。
最判平成8年10月29日(民集50巻9号2474頁)は,「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しないかぎり,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」と述べています。
これらの判例から分かることは,身体的素因による素因減額は,かかる身体的素因が「疾患」に当たる場合には認められ,「身体的特徴」に過ぎない場合には否定されるということです。
※「民集」は,最高裁判所民事判例集の略です。民集に登載された判例は,実務上極めて重要な意味を持っています。
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